第11話(1) 女(男)神が微笑むのは…

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「やぁ、選手諸君」  むさ苦しい選手控え室に現れた麗人。シモン先輩だ。  俺がこの学園に入学したばかりの年、当時3年生だったシモン先輩が一度だけこの剣技大会に参加された事がある。あの細い身体のどこにあれだけの力があるのかと思うほど、シモン先輩はお強かった。  どうやら、筋力では騎士学部には敵わないと魔力操作に力を入れて身体強化魔法に全力を注いだと後から本人に聞いた。その時の優勝者はエリックでシモン先輩は5位。俺は10位だった。  強者揃いの騎士学部生徒を抑えて、貴族学部の生徒が5位に収まるとは前代未聞の驚くべき快挙だ。その時にエリックが何故騎士を目指しているわけでもないのにそこまで努力されたのかと尋ねていた事があった。  彼は、生涯かけて守りたいと思う女性がいるのだと答えていたが…シモン先輩にそのような浮ついた噂ひとつ聞いたことがないので、その女性とはおそらく妹君のシャロン嬢の事なのだろう。 「シモン先輩! どうしたのですか?」  他の選手たちの注目を集める中、エリックがシモン先輩の元へと向かう。俺はこの場に留まりペコリと頭を下げた。  俺は辺境貴族だから、シモン先輩のような中央貴族に何となく苦手意識を持っている。中央貴族は無駄に誇り高い見栄っ張りばかりだからな。爵位でしか、相手を測らないところも苦手だ。  エリックのように素直で実直なヤツなら好ましいのだが…シモン先輩も実力のある者は認めてくださる寛容なお方だ。悪いお人ではなく、むしろ俺の苦手な中央貴族とは違うお人柄だという事も知っている。  だが、少しでもこちらが心を許すと、思わずナイトベル小公爵様に俺の忠誠を捧げてしまいたくなりそうで、それが怖い。油断してはいけない貴族、俺の中でシモン先輩はそのような印象だった。  現に貴族学部だけでなく騎士学部内でもシモン先輩に憧れ慕っている生徒は大勢いた。エリックもその信者の一人だと、俺は思っている。  まぁ、とにかく。田舎出身の辺境貴族の俺が中央貴族のカリスマ、シモン先輩と親しくしていると煩い奴らが出てくるのさ。だから距離を置く。貴族とは本当に面倒な生き物だと思うよ、まったく。
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