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第2話(1) 嵐の前のとある午後1
「シモン先輩、お久しぶりです」
俺が通う王立学園が位置する学芸都市のスクールタウンに見慣れた後ろ姿があったので、迷わずに声をかけた。
「やぁ、エリック。久しぶりだね」
こちらを振り返ってそう朗らかに笑う麗人は、男から見ても見惚れる美しさだ。周りを見れば、貴婦人たちを中心にチラチラと熱い視線がシモン先輩を見つめている。
月のように輝く長い銀髪に、夜の星空を切り取ったような深い深い藍色の瞳。シモン・ナイトベル先輩。俺が尊敬するお方のひとりだ。
確か現在は、学芸都市のアカデミータウンで政治経済を学ばれていると聞いている。アカデミータウンには学問・研究・芸術などに関する指導的な団体がいくつもある。もちろん、それぞれ希望する専攻学問に対し、優秀な成績を納めていないとその団体の敷居を跨ぐのも難しいのだが。
「おや、そちらは?」
シモン先輩の視線が俺の隣に向けられたので、慌てて紹介した。見惚れている場合じゃないぞ、俺!
「シモン先輩、彼は今年王立学園に入学してきた後輩のレオン・タランです。騎士学部に在籍するとても優秀な人材で顔を覚えておいて損はないです。レオン、こちらは一昨年まで王立学園に在籍し生徒会長を務められていたシモン・ナイトベル小公爵様だ。貴族学部に在籍されていたが、騎士学部の生徒顔負けの魔法剣技を持っていらっしゃる」
「エリック、褒めすぎだよ。私は一度も君に勝てた試しがないのに」
「気を抜くとこちらがやられます。騎士学部の生徒の意地として、貴族学部の生徒に負ける訳にはいきませんから」
「はは、君のそんなところが頼もしくて気に入っている。…レオン、と呼んでもいいかな?」
「は、はい!」
シモン先輩に見つめられたレオンは、黒い前髪から覗く金眼を大きく見開いて返事をした。背筋をピンと伸ばし、肩には力が入り過ぎて錨型のようになっている。
…レオンの緊張がこちらにまで伝わってくるぞ。
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