第12話(1) 腕の中の奇跡に願う

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第12話(1) 腕の中の奇跡に願う

 静まりかえる観客席で、私は瞬きすら忘れて試合会場を見下ろしていた。  審判の判定が聞こえる。『勝者、レオン・タラン』。  私は震える手で拍手を送った。すると、お兄様とお父様、そしてお母様もレオンに拍手を送る。しだいに、会場は拍手の嵐に包まれた。 「…ソフィ、ソフィ!」  私は感激のあまり、ソフィを何度も呼ぶ。ソフィも会場を見下ろして、驚いた表情で固まっていた。 「な、なんで…この試合の優勝者は…」 「ソフィ! レオンが優勝したわ!」 「『レオン・タラン』…もしかして、『英雄騎士レオン』…?」  呟くソフィの黒い瞳がこちらを向いて、私を映した。 「そうだ、思い出した。彼は二作目の…!」  そこで言葉を切り、息を呑む。 「……ストーリーが、改変されている?」  ソフィは私を見つめて、けれど私ではなく他の何かを見つめている。興奮気味の私は、そんなソフィの異変に気付かずに、喜びはしゃいでいた。 「彼のところに行ってくるわ!」  お父様が何かお声掛けてくださっていたみたいだけれど、私は止まらなかった。早く会いに行きたい私は、レオンがいる控え室へ足早に向かった。
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