第12話(1) 腕の中の奇跡に願う

2/4
前へ
/320ページ
次へ
「レオン!」  観客席と選手控え室の塔を結ぶ人気のない連絡通路。そこで見つけた向こう側にまだ小さく見える姿に、私はすぐにレオンだと分かった。  嬉しくてたまらないこの気持ち。私の身体はレオンを待つ事なんて出来なくて、駆け出してしまう。 「レオン! すごいわ!」  満面の笑みでレオンも駆け寄ってくる。私も早く早くと足を動かした。  笑顔だったレオンは次第に、止まる気配のない私に気付いたのか慌てた顔をする。それがさらに可笑しくて、私は笑い声をあげながらレオンの元に向かった。  貴族令嬢としてはしたないだなんて、今日は許してね。だってこんなにも嬉しいんだもの。 「ま、待ってください!」  レオンは慌てて私に止まるようにと手のひらをこちらに向けて振った。私が首を横に振ると、レオンはその場に立ち止まり観念したように肩をすくめて、そして両手を大きく広げた。 「レオン、おめでとう!」  遠慮なくレオンの腕の中に飛び込んで、私は言った。レオンは「まだ鎧を付けているので痛いですよ…」なんて呟きながらも私をしっかりと抱きしめる。 「…奇跡が起きました」 「ええ! すごいわ、レオン! 優勝したのよ!」  私と目を合わせてレオンは優しく笑う。 「今、俺の腕の中に奇跡があります…」 「え…?」 「貴女の名前を呼ぶ名誉を、俺に頂けませんか?」
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加