83人が本棚に入れています
本棚に追加
更にソフィは続ける。
「平民の生活は、毎日冷たい水を井戸から汲む事で朝が始まります。その冷水で手と顔を洗い、朝食をご自身で用意します。もちろん、お嬢様の好きなクッキーなんて食べられませんよ、野菜の皮すらも捨てずに食すほど、余裕なんてないのですから」
「…皮って食べられるの? そもそも、野菜に皮なんてあるの…?」
「…コホン。続けますと、常に空腹感を我慢しながらも、毎日働きに出かけるのです」
「わ、私は刺繍が得意だから、針仕事ができるわ!」
言い返すような物言いになってしまったけれど、このままだとソフィのペースになってしまう気がする…負けていられない。
「お嬢様、針仕事とは決して趣味で行えるような仕事ではないのですよ。この期日までにこの量を、と課せられるノルマを日々黙々とこなしていかなければいけません。目が疲れたからと言って、温かい温室で居眠りなんて出来ないのですよ!」
…私がよく公爵家の温室で居眠りしているからって…。
「それに…」
「まだあるの?」
「はい、ここからが特に重要です。お嬢様、平民はロマンス小説なんて読みません。本は高価なもの。本を買うくらいならパンを買わなくては生きていけないのです!」
それを聞いて愕然とした。ロマンス小説が…読めない…?
「…なんてことなの…」
私の絶望を感じとったソフィは両手で顔を覆い俯いてしまう。
「…シャロンお嬢様に平民なんて、絶対に無理ですぅう…!」
ソフィは遂に泣き出してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!