第13話(2) 勘違い

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 私の拒絶の言葉は、静まり返るこの場にはいやと言うほど鮮明に響いた。  まさか拒絶されると思っていなかったのか、殿下はポカンと呆けた顔をして、そして次第に表情を歪ませる。 「何故だ! 王太子姫だぞ!?」 「望んでいません!」  私はギュッとソフィに抱きつきながら、殿下を不敬にも睨む。冷たくなる自身の身体に、ソフィの温もりが私は一人ではないのだと教えてくれているようで、私に勇気をくれていた。 「…シャロン……そんなにこの男が好きなのか!?」  歪む表情で私を睨む殿下は、そう声を荒げてエリック様を指差したのだ。 「……はい?」  今度はこちらが呆ける番である。  一瞬何を言われたのか理解が追いつかず、私とエリック様は互いに顔を見合わせる。すると殿下は何が気に入らなかったのか、私とエリック様を引き離すように私たちの間に割り込んできた。 「そんな事はあってはいけない! 王太子の私がこの国で一番に愛される筈だ!」  な…なにを、子供のような駄々を…。呆れて物も言えないとはこのことか。逆上していた殿下だったが、ふと私が身に付ける胸元のブローチに目が止まる。 「………そのブローチは?」 「えっ…?」  声を荒げていたかと思えば、今度はひどく静かで落ち着いた声色だ。情緒不安定…なのかしら? そんな事を思いながらも、レオンを想って身に付ける金のブローチを、なんとなく殿下の目に触れさせたくなくて視線から逃すようにギュッと握りしめる。  レオン……彼を想うだけで、私の胸はこんなにも温かくなる。 「…金…」  呟いた殿下は、次にエリック様を見た。  エリック様はアッシュブラウンのお髪に瑞々しい爽やかな緑の瞳。金の要素はどこにもない。 「…エリックではないのか」  やっと納得されたようで、殿下は落ち着きを取り戻していた。何やら思案する様子を見せる殿下に、嫌な予感もするのだけれど。
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