第13話(3) 迫りくる恐怖追体験

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 必死に逃げる私の後ろで、ご機嫌に私の名を呼びながら追いかけてくるイーサン殿下。  これほどに恐ろしい体験をしたことは、いまだかつて無い。  淑女としてとか、手本になれるような貴族令嬢とかもはやどうでもいい。私は今、ある意味で命の危機を感じているのだ。  スカートを翻しながら廊下ですれ違う子息令嬢の視線を掻き分けて、私はすぐ後ろに迫りくる恐怖追体験から逃れるため必死に足を動かした。  気付けば人気の全くない校舎裏にたどり着く。ここまで来れば、殿下を撒くことは出来ただろう…。  ふう。と、小さく息を吐く。魔力を足にこめていたとはいえ、全力で走ったから全身に倦怠感だ。ドキドキと違う意味で早鐘を打つ心臓を抑えた。 「……こ、こわかった…」  けれど、もう大丈夫。念のため少しここで時間を潰してから、ソフィと合流しよう…。あとは、エリック様にも助けを求めて…。 「シャロン。追いかけっこはもう終わりか?」  ポン、と肩に置かれた手。その瞬間、驚きのあまり私は「ひゃわあ!?」と、素っ頓狂な声をあげてしまう。 「シャロン、君も普通の少女のように驚くことがあるのだな?」  クスクスと可笑しそうに笑う、自信溢れるその声はまさか…。  私は恐る恐る振り返ると、やはりイーサン殿下が立っていた。
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