第13話(3) 迫りくる恐怖追体験

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 息が、苦しい…そろそろ限界だ。  涙が溢れてきた。そんな私を愛しむような表情で見下ろす殿下が、心底恐ろしいと感じた。 「君にも涙を流すなんて、このような一面があったとは…早く気付いていれば、私は君を愛していただろう」  そう優しい口調で、そっと私の涙を指で掬う殿下。 「恐怖に怯える眼差しを向ける君はなんて可愛くて愛おしいんだ。そんな君でいてくれるなら、これから先もずっとずっと大事にする。安心してくれ」  この人でなし! 私は、そんな歪んだ愛情などお断りだ。そう思いながら、殿下の腕の中で最後の力を振り絞り彼を睨んだ。  殿下はクスリと笑って、「その強情な性格は直させないとだな」と視線を鋭くさせて言う。  絶対、絶対に頷くものか。  私には、心に決めた人が…彼としか、人生を歩みたくない。このような非道な殿下と結婚するくらいなら、公爵令嬢の誇りをかけてここで息絶えてやる!  薄れていく意識の中で、微笑む黄金の瞳の人が脳裏に映った。 「……れお、ん…」  最後の最後まで私の心を埋め尽くすのは、やっぱり貴方だけなのね。
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