第14話(1) お嬢様と王太子

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 まるで生き物のようにうねりながらこちらに向かってくる魔力を、避けることも出来ずに眺めるしかない私だったが、レオンが私を抱きしめて黄金の魔力で包み込んでくれた。青い魔力が黄金の魔力に触れた時、バチバチバチッと激しく爆ぜた。 「イーサン、いい加減にしろ!」  叫ぶエリック様とハリス様も殿下から守るように私の側に立ってくれた。それを見た殿下は顔を歪めながら笑い、厳しい視線を私に向ける。 「タランだけでなく、ハリスとエリックまで手駒にしたのか? まったく恐ろしい女だよ君は!」 「イーサン殿下…」  胸が痛い。けれどこの痛みは殿下の酷い言葉に傷付いたからではなかった。涙は出なかった。ただただ、貴方が憐れで仕方がない。  『王太子』は、イーサン殿下にとって誇りだったのだ。それと同時に揺るぎない自信にもなっていた。それがある日、『王太子』ではなくなると知らされれば、理由は何であれ私にでもなんでも八つ当たりしたくもなるのだろう。  以前の私も『王太子姫』を約束された未来に誇りを持っていたし、自信にもなっていた。だから『ただの公爵令嬢のシャロン』となった始めの頃は、まるで自身の価値が無くなってしまったような漠然とした不安を抱えていたのだ。  だから少しだけ殿下の気持ちが分かる。でも、私と殿下との違いは、『自ら手を離した』か『取り上げられた』か。  『王太子』を『取り上げられる』イーサン殿下は、とても不安定だろう。きっと、誰かに守って欲しい心境だと思う。  …私にはソフィも、家族も、頼もしい友人も、そして好きな人もいてくれたから自然と立ち直ることが出来たの。…でも、貴方には今、頼りたい人が側にいないのね。 「…今は私のことを憎んでいてもいいです。ですが、いつかその憎しみを貴方ご自身で乗り越えて欲しい。そして幸せになってください。イーサン・デイル・サンロード王子殿下の婚約者だった者として、貴方の未来が優しさで溢れるように、切にそう願っています…」  私が殿下に向ける言葉はこれだけだ。これ以上も以下もない。 「……君が、他でもない君がそれを願うのか?」  歪む表情の中に、一粒の涙の雫。その雫はとても透き通っていて綺麗だった。  私への憎しみが宝石のような青い瞳を相変わらず濁らせてはいるけれど、殿下の発する魔力が大幅に弱まる。  今度こそエデルナンド侯爵がイーサン殿下を魔力で拘束する。イーサン殿下はもう抵抗することはなかった。
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