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第15話(1) エデルナンド侯爵領
「シャロン? そんなつまらなそうな顔をしてどうしたの?」
王都から領地に戻る家族水入らずの馬車に揺られていた。私は読書をしていた本から顔を上げ、目の前に座りつまらなそうに外を眺める妹にそう声をかけた。
「……そんな事ないわ」
と、シャロンは言うけれど、長期休暇に入ってから一度もレオンと会えていないことが不満と見える。私はクスリと笑って、静かに本を閉じた。
「ところで、レオンにはプレゼントの件を話してくれたかい?」
「あ……ごめんなさい。すっかりお伝えすることを忘れていました」
素直でよろしい。私はクスクスと笑って、私の隣に腰を下ろす父上に目を向けた。
父上は小さく息を吐くと、「シモンの助言を受けて今回の帰省に伴って新しい護衛を雇ったから、途中で通るエデルナンド領でその護衛と顔合わせをするぞ」と言った。
次期公爵としての努力を認めてくれている父上は、こうして私の意見にも耳を傾けてくれるようになったのだ。
まあ、この間のイーサン殿下の暴走の一件で、シャロンに対する父上の心配症が顕著に現れているのも理由の一つだと思うけれど…。
「まあ、新しい護衛を? エリック様にもお会いできるかしら?」
「エリックもすでに領地に戻っていると聞いているからね。顔を合わせるんじゃないかな?」
「シャロンちゃん。新しい護衛は何でもエデルナンド侯爵が直々に稽古をつけるほど優秀らしいのよ」
暢気な母上はにこにこと可愛らしく笑って言った。
「そうなのですね。楽しみです」
シャロンも笑顔を返していたが、何となくその表情は寂しそう。…ここまでレオンに惚れ込んでいるなんて、兄として妬けるな。
でも、二人には是非とも頑張って貰いたい。私の野望のためにもね。
「…私も楽しみだよ」
私はこの場にいない女性を思い浮かべながら、家族に悟られないよういつもの様に笑顔で上手に隠すのだった。
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