第15話(2) 甘い匂いと小公爵

1/5
前へ
/320ページ
次へ

第15話(2) 甘い匂いと小公爵

 2週間ぶりに再会したシャロンとレオンは本当に嬉しそうで、お互いに想い合っていることが傍目からも伝わった。エデルナンド侯爵夫人から母上と共にお茶会に誘われたシャロンは、さっそくレオンを連れてお茶会に参加するようだ。  その間、手持ち無沙汰となった私は、エリックがいる鍛錬場へ向かおうかと思ったが、やはり先程の応接間の素晴らしい景色が忘れられずに、興がのり庭園を散策してみようと思う。…そうなると。私はとある人物を求めてエデルナンド侯爵邸内をうろついた。 「シモン様?」  玄関ホール付近を彷徨っていると背後から声をかけられ、その聞き慣れた声に思わず口角があがる。 「やあ、リチャードを知らない?」  私は何も悟られないように、いつも通りの穏やかな笑みを浮かべて後ろの人物へ振り返った。 「リチャードですか…? 確か、シモン様がお泊まりになるお部屋のチェックに向かったと思いますけど…」  本当は私の専属執事のリチャードに用なんてない。あるのは君にさ。 「そうか…。どうしよう、今から庭園に向かいたいんだけど、リチャードが今手が離せないとなると…」  私は悲しさを表現するため少し目を伏せた後に、期待したような視線を相手に送る。 「……わ、私で良ければお供致しましょうか?」  そう言って心配そうな目を向けてくる彼女に、私は心の中でほくそ笑んだ。 「いいのかい? でも、仕事があるんじゃ…」 「もう一通りは終わりましたので、大丈夫ですよ」 「そっか…じゃあ、お願いしようかな」  私は笑って、甘い視線で彼女を見つめた。 「…ありがとう、ソフィ」 「いいえ、お役に立てて何よりです!」  私の(こころ)(うち)など何も知らないソフィは、汚れのない眩しい笑顔を浮かべている。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加