第15話(2) 甘い匂いと小公爵

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 私は自分の思い通りに事が運びとてもご機嫌だった…十数分前までは。  ソフィを連れて庭園へと向かっていると、廊下でまさかの専属執事リチャードと出会(でくわ)してしまったのだ。 「あれ、シモン様? どちらに?」 「………」  なぜだ。なぜリチャードはタイミングが悪いのだ。  私の吹雪く心情など知らずに朗らかな笑顔でこちらに近付いてくるリチャードが今は特別に憎らしい。 「あ、リチャード! シモン様が庭園に用があるらしく貴方を探していたのだけど、居なかったから代わりに私がお供することになってたの。でも、もう大丈夫そうね」  と、私の後ろでソフィは安心したように言う。 「そうなんだ、ソフィ、ありがとう。では、シモン様、庭園に向か……い、ま……」  私とリチャードの視線が重なる。途端にリチャードは青い顔で固まった。 「………ごめんソフィ。そう言えばこの後旦那様に呼ばれていたんだった。僕の代わりにシモン様の付き添いをこのままお願い出来るかな?」  冷や汗をかきながら笑顔を顔に貼り付けて、私の後ろにいるソフィへと向き直るリチャード。 「え、そうなの? うん、分かったわ!」  彼女の明るい返答を聞いて、私の専属執事は心底安堵した様子の表情を浮かべていた。
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