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「シャーロームティーでございます」
「あ、ありがとう」
いまだドキドキと早鐘を打つ心臓を抑えながら、メイドが入れてくれた紅茶に口を付けて一呼吸。
ふわりと香る上品なかおり。透き通る紅茶は金色の月のように美しい。程よい酸味で後味もスッキリとして、男性にも飲みやすい。
シャーロームティーか、いいな。
「口に合うかい?」
「はい、この香りとスッキリとした味わい。とても気に入りました」
シモン先輩の問いかけに答えたのはハリスだ。あまり物事に関心や好みを示すことのないあの男が素直に認めるなんて、よっぽど気に入ったのだろう。
「それは良かった。父がね、それはもう熱心に開発した茶葉だから。聞いたら喜ぶよ」
「ナイトベル公爵が、ですか?」
「そうだよ。ナイトベル家イチオシ商品。愛娘の名前から名付けた渾身の一作さ」
「……お兄様、それ以上は…」
「はは、ごめんねシャロン。ほら、ケーキを買ってきたんだ。許しておくれ」
シャーロームティー…シャロン嬢。なるほど。
「なるほど。シャロン嬢の名前から連想させて、シャーロームティーと…」
「おい、ラザーク」
俺は思わず、ラザークにそれ以上言うなと意味合いを込めて首を横に振った。
空気の読めない男め。
「ラザーク、勘弁してあげて。僕の妹が恥ずかしさのあまり涙目だからさ」
シャロン嬢を見れば確かに、顔を赤らめプルプルと肩を震わし涙目だ。それを見て焦ったラザークは「ただ私は、素直に洒落ていると思って…」と、続けるものだから彼女は必死に羞恥に耐えている、とても頑張って耐えているな、あれは。
…こんな表情も出来たんだ。とても意外だ。
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