第15話(2) 甘い匂いと小公爵

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 ただなんとなく、かすかに甘い匂いが鼻を掠めたような気がする。私は空を見上げて思わず「甘い、匂い…?」と呟いた。  ソフィもこの匂いに気付いたようだ。そして、みるみる内に表情を輝かせる。 「もしかして……シモン様! 私、お探しの花が分かったかもしれません!」 「……ええ?」  まさか、そんな花が本当にあったと言うの?  目を丸くしていると、ソフィが私の手を取り走り出した。 「そ、ソフィ!?」  私は更に驚いて目を見開く。  ソフィは前を走りながら私に振り返り楽しそうに笑っている。赤や黄色に彩られた秋らしい花々がソフィを引き立てていて、私は彼女から目が離せない。  ソフィと手を繋ぐなんて、私が子供の時以来だ。  大人になって立場を自覚して、この気持ちを誰にも悟られないように…絶対に邪魔されたくないから大切に隠してきたのだ。触れたいのを我慢して、必要以上の接触は避けてきたんだ。  まるで、子供の頃ソフィと遊びまわった頃のよう。当たり前のように私と君は手を取り合って駆けまわった楽しい思い出。今よりも素直な気持ちで過ごせていた懐かしい日々が恋しい。そんな記憶が蘇ってきて、私は無性に泣きたくなった。  願わくば、君の手を取ることが出来ない私の代わりに、君が私の手をいつまでも握ってくれていたらいいのに…。
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