第15話(3) 金木犀

2/3
前へ
/320ページ
次へ
「……ソフィが、どこかに行ってしまいそうで…」  思わず(こぼ)れてしまった本音。  ハッと我にかえりしまったと思ってももう遅い。ソフィは驚いたように目を見開いた後に、すぐに悲しそうな笑顔を浮かべた。 「…どこにも行きません。私が生きる世界はもうここですから」  意味深な言い方だったが、私は聞き流した。ソフィはたまに、何かを諦めたような顔をする。それは昔からだった。その理由を知りたいような、いや、でも知りたくないような。  君にそんな悲しい顔をさせずに私の側に繋ぎ止めるために、私は何をすれば良い?  早く周りに認めて貰えるように、領地経営も学び力を入れた。誰にも足元を掬われないように、自分に厳しく隙なんて見せないように努力した。私に意見なんて出来ないように、誰もが認める公爵となる為に。  その全てはソフィ、君と一緒に居たい…ただその為だけなんだよ。  私がナイトベル公爵家を更に繁栄させることが出来れば、他の家門の後ろ盾なんて必要などなくなる筈なんだ。そうすれば…公爵家の嫡男と孤児院からやって来たメイドもいつかは…なんて淡い期待を胸に抱いて。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加