第15話(3) 金木犀

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 …当の本人が未だに私のことを弟のようにしか思っていないことが、なんとも計算違いだけれどね。  ソフィは私の思慕になんて気付かずに、暢気に匂いを嗅ぐ仕草を見せたかと思うと、ふと私に目を向ける。 「金木犀の花言葉を知っていますか?」 「……誘惑」  図鑑を見た記憶を呼び起こす。いくつかあったけれど、この甘い匂いを嗅いでいれば『誘惑』の花言葉に納得だ。 「さすがシモン様。でも私の好きな花言葉は他にあるんです」 「え?」 「初恋」  ニコリと笑うソフィに、私の胸が熱くなった。 「甘酸っぱい金木犀の匂いに、なんともお似合いな花言葉だと思いませんか?」  『初恋』。まるで、私にぴったりの花だね。 「本当だ。初恋は忘れられないからね、この匂いも中々忘れられそうにないし…」 「ふふ、初恋の甘酸っぱい気持ちが思い起こされるようですよね」 「ソフィの初恋の思い出…興味あるね」 「…言いませんよ!」  …あぁ、君の笑顔は眩しいな。  どうして、こんなにも心まで奪われているのに、私はこのまま君を抱き寄せることも出来ないのだろう。  君が私の前に現れた日から、世界の何もかもが変わってしまったんだ。朝日が昇る美しさも、夕日が沈む切なさも、全部君が教えてくれた。  ソフィが、私の世界に輝きをくれたんだ。だから私は、精一杯に生きて…。 「……君の為だけに咲く花となりたい、なんて…」 「? シモン様、何か仰りましたか?」 「…なんでもないよ。ただの戯言だから」  この先、何があっても私はソフィに恋をし続けているのだと思う。どの季節が来ても、この想いと共にキンモクセイの香りが薄れていくことは無いのだろうな…。
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