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途端にハッとした顔をして、シャロン嬢の側に寄る。
「お、お嬢様! そろそろ皆様に本題をお話しては如何でしょう?」
和やかな雰囲気で兄と笑いあっていたシャロン嬢に、メイドは慌てたように本題を促した。
そうだ、俺たちはまだ何故この場に呼ばれたのか聞かされていない。
「…そ、そうね。そろそろ…うん、私もそろそろお話しようと思っていたの」
もしかして、忘れてた? …と疑ってしまうようなシャロン嬢の表情を目の当たりにしてしまったが、シャロン嬢はコホンと小さく咳払いをして表情を引き締めた。
「この度、皆様をお呼びたて致しましたのは、他でもありません。イーサン王太子についてでございます」
ニコリと令嬢のお手本のように綺麗に笑うシャロン嬢の発言に、俺たち三人はピリリと警戒心をあげた。
それはそうだろう。
最近、リリスと出会ったイーサンは俺の目から見ても婚約者であるシャロン嬢を蔑ろにしつつあるように思える。それに、まだ小さな噂だが、シャロン嬢がリリスに嫌がらせをしている…なんて話も耳にした事がある。そこに今日、俺たちが呼び出されるときた。
…正直、シャロン嬢の立場を考えると可哀想だとは思う。
だが、リリスは子爵令嬢。身分的にもイーサンとは釣り合わない。卒業すれば王宮から自由に出られなくなるのだから、学園だけでもアイツを自由気ままに過ごさせてやりたいと思ってしまう。
イーサンだって分かっているはずだ。リリスだって、まさか王太子姫になれるなんて望みすら持っていないだろうし。二人が一線を越えることはないと断言できる。
だから、数年だけ。数年だけシャロン嬢に我慢して貰えれば、全ては元通りになるのだ。
俺はシャロン嬢を真っ直ぐに見つめた。
シャロン嬢は相変わらず、人形のように綺麗な笑顔を浮かべており、そして今まさに言葉を紡ごうと小さな唇が開く。
「私と殿下が婚約を結んだ6年目記念に、殿下に内緒でサプライズのお祝いをしたいのです!」
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