第16.5話(1) 葡萄酒の盃

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第16.5話(1) 葡萄酒の盃

「収穫祭、盛り上がっているようですよ」  専属執事のリチャードが、窓から見える夜景を眺めながらふと教えてくれた。 「ふふ、なら良かった」  私も書類から顔を上げて、羽根ペンをペン置きに置いた。朝から収穫祭に関する業務が舞い込んできていて、休む暇が無かったのだ。  時刻はいつのまにか夕刻を過ぎ、本日の収穫祭はそろそろフィナーレを迎えようとしている時刻だ。 「そのような雑務は僕に押し付けて、シモン様も楽しんできて頂いても良かったですのに…」 「…うーん、でも、まぁ…私はいいよ、収穫祭を一緒に過ごしたい人なんていないし…」 「僕には嘘なんてつかなくてもいいのですよ?」 「………君は…優秀すぎて困るよ、まったく」  私は思わず笑って、チェアーに深く腰掛けた。  リチャードはニコリと優雅に笑ってみせながら「何年、シモン様に鍛えられ…いえ、お仕えしたと思っているのですか?」なんて生意気にも言う。
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