第16.5話(1) 葡萄酒の盃

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「楽しかったあの日に戻りたい。最近、よく考えてしまうんだ」  私が昔を懐かしみながらそう言うと、リチャードは何か思案する様子を見せたあと、何故だか眩しい笑顔をこちらに向けてきた。 「…でも戻らずとも、今は今で楽しい毎日だと思いますよ。シモン様の努力されてきた13年は無駄ではないと僕は思います」 「ははは、ありがとう。君にそう言われると、本当にそう思えてくるよ」 「僕は本当の事しか申し上げません。きっと今にも、シモン様の13年が少しは報われると予言します」  そう言って自信満々なリチャードを私は不思議に思い見上げた。その時、私のいる執務室にノック音が響く。 「はい」  リチャードはすぐに返事を返し、扉の向こう側にいる者を迎え入れた。 「やはりまだお仕事をなさっていたのですね、シモン様!」 「え? ソフィ?」  思いもよらなかった訪問者に私は目を丸くする。
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