第16.5話(1) 葡萄酒の盃

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「しかしソフィ。せっかくの休暇なら他に共に過ごしたい者と祭りに行けば良かったのに。こんな執務室じゃなくてさ」  私がそう言うと、ソフィは葡萄酒を自身の器に注ぎ足しながら私に笑顔を向ける。 「だって、一緒にお酒を飲んで過ごしたい人が執務室にいるんだから、仕方ないじゃないですか!」 「…………え、っと」  顔が熱いのは、ワインのせい。 「おい、ソフィ! こぼれてる、こぼれてる!」 「わあ!?」  ワインをこぼして慌てる2人を眺めながら、私は冷静になろうと必死だった。 「あれ? シモン様、もうお顔が赤いですよ?」  なんて彼女が言うから、余計に意識してしまう。 「…私のことはいいから、綺麗に拭いて」 「あ、はい」  少なくとも、収穫祭を共に過ごしたいと思える候補に私は含まれているということかな…。確かにリチャードの言う通り、この長い13年は無駄では無かったのかもしれない。  そう思うと、安物しか買えないのだと言ってソフィが持ってきてくれた葡萄酒が、やけに美味しく感じられた。
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