第16.5話(2) デザイナー達の試練

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第16.5話(2) デザイナー達の試練

 収穫祭も終わりこれから本格的な冬の時期に入ると同時に貴族たちは社交界シーズンに突入する。例年ではそれまでに少しゆっくり出来る時期なのだが、今年はセドリック王子の王太子授与式が行われる為、私たちナイトベル公爵家一家はレオンとルーカスを連れて急いで王都へと戻ることになった。  …いや、本来ならもう少し余裕はあるのだけれど、父上がどうしても戻らなくてはならないと仰ったのだ。 「あそこの洋裁店のデザイナーを呼んでおいてくれ。それと西通りの…そう、そこの店のデザイナーも。今日中に来るなら別途に手付金も用意すると伝えてくれ」  と、王都にあるナイトベル公爵邸に到着したかと思えば筆頭執事のゼロニスに父上は何やら慌ただしく指示を出している。 「あらまあ、旦那様ったら、張り切っちゃって。可愛い!」  と、母上が少女のような笑顔を浮かべて頬を染めている。…あの貴族たちに恐れられている父上を可愛いなどと呼べるのは、この世界で母上ただ一人だけだろう。 「ソフィ。お父様は何をあんなに張り切っているの?」 「ええっと…おそらくセドリック王子の王太子授与式に関わることでだと…」 「ふうん?」  と、隣で愚鈍な妹がソフィに尋ねているところを見て、何とも言えない気持ちになった。シャロンは世間知らずだからなぁ…。  腹芸の出来ない真っ直ぐなレオンと世間知らずなシャロンの組み合わせに少なからず不安を感じているのは、どうやら私だけでは無かったらしい。  父上もまた私の仲間だったのだと、慌ただしく使用人に今後の指示を出していく父上を眺めながら思った。
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