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「どれもこれもだめだ。全然、レオンの魅力を引き出せていない…」
お気に召さないらしいナイトベル公爵閣下は、国の行く末を決める重鎮会議でもしているのかと思うほど鋭い視線でデザイナーひとりひとりに目を向け圧をかけていく。デザイナー達は怯えた様子で父上を静かに凝視していた。
「持ってきたデザイン案はそれだけか? この男をよく見ろ! まだ成長過程のあどけなさを残した独特な色気を放つこの整った顔立ち! それに反して鍛え上げられた見事な体躯! モデル顔負けの長い手足に高身長! 闇夜のような漆黒の艶やかな髪! 野獣のような強さと本能を秘める黄金の瞳は眠れる獅子そのもの! この男の魅力を最大限に引き出すデザイン案を持ってきなさい!」
…父上、結構レオンのこと気に入っているんだね。
「二晩、猶予を与えよう。デザイナー諸君は今夜からこの公爵邸に留まりなさい。明後日、改めて案の選別を行おう。そして、選ばれたデザイナーは今後ともナイトベル公爵家の贔屓としての付き合いを約束しよう」
父上の無茶振りとも言える内容に困り果てた顔をしていたデザイナー達だったが、最後の言葉に顔つきが変わった。
いくつもの事業を成功に納めてきている公爵家に認められたとなれば…公爵家の後ろ盾を得た上で個人店の出店も夢では…と、デザイナー達の頭に過ぎっている事だろう。
ナイトベル公爵家贔屓のデザイナー。それはあまりにも甘美な響きだった筈だ。
こうして…公爵邸で人知れず、名だたるデザイナー達の夢と希望を懸けた聖戦のゴングが鳴らされたわけだが…。
「…リチャード。とりあえず、レオンの髪をカットして整えてくれる? 私の部屋に案内して」
「はい、かしこまりました」
私はとりあえず、父上とデザイナー達に獲物を狙う鷹のような鋭い目で見られて、怯えた様子の哀れな眠れる獅子を救出してあげることにした。
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