第17話(1) 壊れた歯車

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 その笑顔が美しいと思う僕は何かがおかしいのかな。苦しみの中にこそ、美しさを見出してしまう僕は…。 「…セドリック、どうした?」  父上の声に、ハッと我に返った。見ればこちらを伺うように僕を見る父上と、その後ろで煩わしそうな顔をした側妃。  僕が何でもありませんと答えれば、父上は「疲れが出たのだろう。テラスで夜風に当たって少し休みなさい」と言った。  僕はお言葉に甘えることにする。もう、挨拶は懲り懲りだ。  テラスに出ると闇夜に浮かぶ見事な月が美しかった。まるで月の女神のようなあの人を思い出す。  はぁ…と息を吐けば、すぐそこまで来ている冬の訪れを告げるような澄み切った空気に少しだけ白んだ息が舞った。  この国に母上と僕を助けてくれる人は誰もいなかった。そして母上は追い詰められて、ついに数年前から心の病気を患った。壊れてしまったのだ。
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