第17話(1) 壊れた歯車

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 僕らを見てワザと果物ナイフを置き忘れたメイドがクスクスと笑う。嘲笑を浮かべるメイドたちに囲まれて過ごす日々。誰も助けてはくれない。何故なら僕らはこの国に必要のない歯車だからだ。  けど、そんな僕に光が当てられた。  イーサンお兄様の王太子廃嫡に伴って。きっかけとなったナイトベル公爵令嬢には感謝する。これで僕は、この国に復讐できる足掛かりを掴めたんだから。  …ねぇ、今まで正常に動いていたはずの機械に、壊れた歯車が紛れ込んでいたらどうなると思う? 答えなんて安易に想像がつくよね。  僕と母上のように、この国もぶっ壊してやるってね。  だからあの日…剣技大会の日、婚約者を別の女に奪われた哀れなシャロン嬢に感謝の意を込めて顔を合わせたのに…。  満ち足りたような彼女の表情は、何故か僕を苛つかせた。その美しくも澄ました顔を、僕は…。  ふと、テラスの下に見える噴水に二人の男女が腰掛けていることに気がついた。  シャロン嬢と、噂の平民だった。暗がりの中でもライトアップされた噴水のおかげで二人の表情はよく見える。  二人とも、なんて幸せそうな顔なんだ。 「…あの笑顔が苦痛に歪んだら、さぞ美しいんだろうな」  壊れた僕の呟きは、夜空に吸い込まれて消えていった。
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