第17話(2) 月光の影にひそむもの

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「そこで何をしているのですか?」 「貴方の、セドリック王太子殿下の祝賀パーティに参列しているのです」 「ここから会場まで、随分と遠いですよ」 「迷ってしまいましたの」  僕は警戒心を最上レベルに引き上げて、目の前の女を睨みつけた。女は気にする様子もなく気安く話しかけてくる。 「私は、セドリック王子の望みを知っています」 「…急に何を言うのです」 「……憎いのですよね、全部」 「………」 「壊したいのでしょう? 目に見えるもの全てを」  カツ、カツとヒールを打ち鳴らし女がこちらに歩み寄ってきた。  影から足が伸びてくる。真っ赤なヒールが姿を現し、闇夜に溶け込む黒いレースのまるで喪服のようなドレス。明らかに舞踏会には参列していない装いだった。そしてついに月光に晒される、その女の正体。 「私は、なあんでも知っているのですよ」 「…貴女の正体が分かった。魔女だ」  魔女はニコリと愛らしく微笑んだ。男を魅了できるであろうその純朴な笑みで僕に近付き膝を折る。 「ふふ、では魔女の私が願いを叶えて差し上げましょう。まだ小さくて何の力もない可愛いセドリック王子様」  そしてその毒々しいまでに赤い唇で、悪魔の甘言を囁くのだ。 「まずは四大公爵家を破滅させればいい。たとえば、ナイトベル公爵家とか。…ね?」  そう言って魔女は、僕の頬にキスをした。
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