83人が本棚に入れています
本棚に追加
…だめだ。間に合わなかった…。
「……イーサン殿下…」
シャロン嬢の目に映るこの光景は、あまりにも酷い。
胸が肌けたリリスと、ズボンを下ろしているイーサンが執務机の上で抱き合っていたのだ。
シャロン嬢の手から力が抜けたのか、バランスを崩したケーキがボトリと音を立てて床に落ちた。その音で正気に戻ったのか、リリスは「きゃあ!」と叫びながら胸を隠し、イーサンは慌ててズボンを持ち上げている。
「な、なんだ急に? みんなして…!?」
イーサンは混乱しているようだった。俺たちだって混乱している。未だ何も言葉を発せない。いや、これは、もう…アウト…だよな…。
シャロン嬢は目を見開き大粒の涙を流しながら、肩を震わせていた。
「…っ、で、殿下…これは一体…っ!」
そして、一生懸命に言葉を紡ぐ。
「殿下は、私を…う、うらぎ、って、いたのです、ね…?」
まさか俺は、この裏切りに加担していたというのか…?
「しんじ、て…いたのに…っ」
シャロン嬢の言葉に、俺は胸を締め付けられた。
「……うぅっ、…そう、私は、まだ殿下を信じていたのに」
それはとても悲しげで、そして何かを諦めたような笑み。
「信じさせ続けては、下さいませんでしたね…」
シャロン嬢はそう告げると一歩引いて「本当にさようなら、私の恋心」と、小さく呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!