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第19話(3) 不運と不幸と女神の来訪
バシャッ
「うわっ! …おいおいおい…」
俺は顔を顰め、今しがた俺の脇を通り過ぎて行った馬車を睨みつけた。
昨日の夜中に降り続いた豪雨はどこへ行ってしまったのか…今では綺麗な朝日が王都の街を照らしていた。
水溜まりを踏んだ馬車の横を歩いていた俺は、運悪くも泥水を被ることになってしまったが、悪くない朝の情景だ。
素晴らしい朝日だなぁ、なんて、朝の散歩を楽しみながらしみじみと世界の素晴らしさを噛みしめていたというのに…俺の情緒を返せと言いたい。
「くそっ…ついてねぇな…」
俺は充分に楽しんだ煙草の吸殻をぺっと道端に吐いた。その瞬間、普段からモラルに煩いパン屋のマダムが店から出てきたので、ちょうどその一部始終を見られてしまう。
ギロリ、とパン屋のマダムに睨まれた。
「いやいや、火を消そうと…こうやって、ね?」
俺は取り繕う笑顔を浮かべて今しがた吐き捨てた吸殻を革靴でグリグリと潰してみせる。
マダムの厳しい目は変わらず俺に向けられたまま。
俺は「ははは、今朝はすっかりいい天気になりましたねー」なんて挨拶しながら、雨水を吸って萎びた吸殻を拾いあげた。そこでやっとマダムは気が済んだのか、パン屋に戻っていったのだった。
「ますますついてねぇな…」
つい数日前、煙草のポイ捨てをマダムに見られて盛大に説教を食らった。もうあんな思いはしたくない。マダムは俺の鬼門だな。
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