第19話(3) 不運と不幸と女神の来訪

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「やあ、今日は早いね。散歩かい?」 「あ、オヤジ。おはよう。まぁな、気が向いてちょっと」  帰路についていると、近所の比較的よく話すタバコ屋のオヤジが店の前を掃除していた。声をかけられて、俺は足を止める。 「記事の売れ行きはどうだい?」 「ああ、それなぁ…全然駄目だわ。『バーク・パーク伯爵夫人の刺繍愛の世界』ってやつを書いたんだけど、閑古鳥が鳴きっぱなしだぜ」 「…タイトルからして、全く面白そうじゃないね」 「そうか? 書いてて結構面白かったんだけどな。刺繍って奥が深い世界なんだなぁって」  なんとなくオヤジが哀れみの目を向けてきている気がするな。 「ところで、その服はどうした?」  あ、話をかえやがったな、と思いながらも、「聞いてくれよ、さっき馬車が…」と、ついさっき起きた不運の出来事をオヤジに話す。 「このシャツ、おろしたての新品だったのによ」 「はは、可哀想だなぁ」  オヤジは可笑しそうに笑って、店に戻ると何やら手に薄茶色の小瓶を持って戻ってきた。 「やるよ、飲みな」 「なんだ?」 「ナイトベル公爵家が新発売した『コーラ』という飲み物だ。エールよりも強い炭酸で、そして甘い。今、若者に人気の飲み物らしくてな、俺の店にも置いてみることにしたんだよ」  …ナイトベル公爵家、か。
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