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自宅兼事務所につき、俺は泥水とコーラを被ったおろしたての衣服を脱ぎ、シャワーを浴びた。
髪を洗おうとシャンプーボトルに手を伸ばして、気付く。
「…しまった。昨日使い切ってから中身を詰め替えてなかった…」
仕方ない。とりあえずは、この汚れをお湯で落とせるだけ落とそう。と、思った瞬間、シャワーのお湯が段々と冷水に変わる。
「つめ、つめたっ!? 加温装置魔具の故障か!? はあ!?」
このタイミングで!? 本当になんなんだ!? どれだけついてねぇんだよ!?
大急ぎで冷水で頭と体を洗い風呂を出た。バスタオルにくるまり、寒さに奥歯をガチガチと鳴らしながら、温かいものを飲むためにお湯を沸かす。
冬に差し掛かろうとするこの季節で、どこに冷水で体を洗うやつがいる。きっと俺しかいないと思う。
すぐにお湯が沸いたので、ナイトベル公爵家が数年前に発売した大ヒット商品、インスタントコーヒーをお湯で溶き混ぜて啜った。手軽にコーヒーが飲めると人気で、俺も随分とお世話になっている。
「はあ…あったけぇ…」
冷たい体に熱いコーヒーが染み渡る。俺は作業机の椅子に座り、ゆっくりコーヒーを堪能しようとした瞬間。
パキンっ
なんと。カップの取っ手が折れて、コーヒーの入ったカップが机の上に転がってしまう。
「あっつ! って、ちょぉお! 待ってくれ!」
コーヒーが大きな染みを作っていくその用紙は…俺の大事な報告書だぞ!? 昨日、やっとの思いで書き上げたんだぞ!?
「今日、なんでこんなについてないんだ! ついに俺は死ぬのか!?」
あまりに理不尽な自分の不運さに怒りが込み上がってきて、バスタオル一枚巻いた姿で俺は嘆いた。
トン トン トン
その時、部屋に規則正しいノック音が響く。
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