第19話(4) 翻弄される『記者』

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第19話(4) 翻弄される『記者』

「………え、あの、え? ナイトベル、公爵令嬢…?」  驚きと戸惑いから、俺の視界がぐるぐると回るようだった。今、目の前には例の公爵令嬢と専属メイドが立っている。 「あなたがマイケル・マクソンさんですね?」  ナイトベル公爵令嬢はニコリと上位貴族に相応しい綺麗な微笑みを浮かべて俺に尋ねてきた。  そこで冷静さを取り戻そうと、シャロン・ナイトベルが訪ねてきたのは『マイケル・マクソン』であって『俺』じゃないんだ、と自身に言い聞かせる。 「マクソンさん?」 「あ、はい。すみません。あまりの美しさに見惚れてしまって…俺がマイケル・マクソンです」  固まっていた俺を不思議そうに見上げるシャロン・ナイトベルに取り繕うように笑って、俺は笑顔でお辞儀した。彼女は「まあ、そんなこと…」と、褒められたことが嬉しいようでほんのりと頬を染めている。  なんつーか、とんでもなく美少女だな。これで、あの抜けた可愛らしい性格って…あの侯爵の坊ちゃんも、将来有望な平民小僧も、骨抜きになってしまうのは仕方のない事実だな。 「ええっと…御用件は中でお伺いしますけど?」  俺がそう言って事務所の中へと促すと、目の前の女神様は少しだけぎこちない笑顔を浮かべて「…もし私に触れると、私の専属メイドが黙ってはいません。彼女は遥か遠い国に伝わる『けんぽー』の達人ですからね!」と言うので、『けんぽー』を知らない俺は「はあ…」と気の抜けた返事を返した。  いや、触りませんけれど。おい、なぜ専属メイドは今まさに戦いの構えをとろうとしている。なんか「アチョー!」とか言い出したし。かなり怖ぇんだけど。
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