第19話(4) 翻弄される『記者』

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「俺が書いた『バーク・パーク伯爵夫人の刺繍愛の世界』…」  そう、売れに売れなかった俺の最新記事だ。  この記事をこのお嬢さんがなぜ…? 俺は眉を顰める。  何故なら、表向きはただの伯爵夫人の刺繍絵柄集だが、裏の姿は俺の母国に向けての暗号化した報告書だからだ。 「…私、愛読しておりますの」 「は?」  このくっそつまんねぇ記事を…愛読? 俄かに信じられないんだが。  俺が目を丸くしてシャロン・ナイトベルを見ると、彼女は自身がはめていたシルクの手袋を外し「ほら、ここに記事にあった刺繍絵柄を素敵だと思い刺しましたのよ」と見せてきた。  こ、この刺繍絵柄は…!! 見事に再現された手袋の刺繍柄は、俺が母国に向けての暗号文…『貴族派対象VがC国対象Mと接触、麻薬裏取引あり』という内容のものだった。  王党派の家門の娘であるシャロン・ナイトベルが奇しくもその柄を…。さらに公爵令嬢は「こちらもご覧ください」と笑顔でハンカチやボンネット帽を見せてきた。  『貴族派対象Aの汚職証拠掴む』『貴族派対象Lと中立派対象Yが密会、金銭やり取りあり』という内容の暗号文のもの。  今のシャロン・ナイトベルは歩く、貴族派告発暗号文のよう。  偶然…なのか? 王党派と対立する貴族派に不利なものばかりをチョイスして、俺に何かを伝えようとしてきている…? 「お兄様にも、とても褒められましたの!」  さらに、切れ者と噂のナイトベル小公爵の存在を持ち出して、圧をかけてきている…!?   シャロン・ナイトベルの言葉がどうしても『貴族派の情報を開示しろ。さもなくば兄と共にお前を追い詰めてやろう』にしか聞こえない…。
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