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日暮れ時の西陽を浴びて、赤く染まるシモン先輩が妖しく微笑んでいた。いつもの朗らかな笑みではなく、冷え切った微笑み。
シモン先輩は静かにイーサンの元へ近付くと、足を上げ勢い良くイーサンの顔の真横を踏み込んだ。
「やぁ、イーサン殿下。ご無沙汰ですね」
そうして穏やかに挨拶するのだが、背筋がゾッとする。一瞬、イーサンの顔が踏み潰されたのかと思ったのだ。
放心状態だったイーサンも、怯えるようにシモン先輩を見上げていた。
「…この件は、然るべき方法で然るべき責任を。とってもらいます」
いつも笑顔の彼が真顔でそれだけを告げると、早々にこの部屋を後にして去って行った。
シモン先輩が踏み込んだところには、粉々に割れたチョコレートプレートがあった。
それは、シャロン嬢が自らチョコで書き込んだ『祝 6年目記念日』と書かれていたものだった。今ではもう、何と書いてあったのか読み取れない。
これは、あんまりではないか?
あんまりにも…酷い仕打ち…シャロン嬢に対しても、そして…。
「……俺たちも、俺たちだって、イーサンを信じていたんだ…」
「…エリック、僕たちも行こう」
ハリスに軽く肩を叩かれて、俺は力なく頷いた。
「殿下、ズボンを履いて下さい…その…立てますか?」
ラザークがイーサンを立たせている所をぼーっと眺めていると、ハリスに部屋を出るよう促される。
「…あぁ。あと、リリス。もう今後一切、僕たちには関わらないでね」
「え? なんで私が…!」
部屋を出る前に、ハリスがリリスに告げる。リリスは何か反論していたが、俺たちの耳には届かなかった。
これから王宮に行かなくては…。
あ、レオンとの夜練の約束、守れないな…。
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