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「この記事を書いた方に私は腹を立てております。私だけでなく、私の大事な恋人や友人も貶められた内容に、とても許すことなど出来ません。マクソンさん…いえ、記者Xさん。貴方を模倣してこの記事を書いた者に心当たりはございませんか?」
たしかに『記者X』と書かれたこの記事を書いた者にかなりの心当たりがあった。リリス・スイートラバーだ。
あの女、こんな妄想話のくそみたいな記事に俺の名を使いやがって。記者Xのモットーは、真実のみを伝える、この一点に限るのに。
あのお嬢さんのことはどうでもいいので、別に心当たりを伝えてもいいのだが…俺の正体を知っているから下手なことはできねぇな。めんどくせぇ。
「…その前に、なぜ俺が『記者X』だと? 全く身に覚えがありませ…」
「隠す必要はありません。私は全てわかっています」
シャロン・ナイトベルの僅かに揺れる強い眼差しが、俺を射抜く。
「……俺には、何がなんだか…」
「貴方の正体が…誰にも知られたくない秘密だってことを…」
彼女の、真実を見通すかのような綺麗な星空の瞳に見つめられてゾワッと全身が粟立つ。
リリス・スイートラバーの言う通り。専属メイドではなく、ただの恋愛脳少女だと思っていたシャロン・ナイトベルこそ、警戒しなくてはならない相手だったのだ!
普段のあの間抜けな日常生活は仮の姿だったんだ! 俺に悟られないよう、こうして俺を追い詰めるために。俺の正体に気付いてやがる…! 俺をも欺いてみせるこの手腕! 危険だ! あまりにもこの女は危険!
はやく、母国に伝えなくては!
「貴方の考えはわかっています」
「なっ!?」
思わずガタリと椅子から腰を浮かせた。顔から血の気が引いていくのが分かる。俺の考えが分かるだと? 母国でも諜報員として訓練し、首席の成績を納めたこの俺の…。この女、かなり高度な読心術を心得ているのか!?
「マクソンさん、貴方が私に好意を抱いているがゆえにストーカー行為に及んだということを!」
そう、早急に母国に伝えなくては。俺がシャロン・ナイトベルに好意を抱いているというこ……んんっ?
「はっきりと申し上げます。私のことは諦めてください! 貴方の気持ちには応えられません!」
「………んんん?」
なんか俺、突然振られた。
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