第19話(5) メイドとの取引

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「………は?」  ゼノ・コールマン。誰も知るはずのない…。  俺は目を見開いて目の前の女を見る。メイドは笑顔で俺を見上げているが…その瞳がまるで…何もかも知っているのだと豪語するリリス・スイートラバーの瞳と酷似していた。 「なぜ、俺の名前を…」  知っている? このメイドは、何者だ? 「さて、なぜでしょう?」  専属メイドは楽しそうに笑っていて、それを見た俺は視界がグラリと揺れるようだった。 「…お前たちは、一体何者だ!」  俺が急に叫んだので、シャロン・ナイトベルがビクリと肩を上げて驚いていた。 「『たち』? ですか…」  メイドは眉を顰めると何か思案する表情を浮かべて、改めて俺をみる。 「…そっか。ゼノの依頼主は私と同じ転生者なんだね」  独り言のように小さく呟かれた言葉だったが、俺は聞き逃さなかった。『てんせいしゃ』…と、確かにこのメイドは言ったぞ。 「ゼノさん。私と取引しませんか? 私は貴方の正体を知っています、ですが、邪魔をするつもりはありません。私の願いは、シャロンお嬢様が健やかに幸せに暮らす日常…ただそれだけなのです。貴方の能力は私の願いを叶えることが出来る力です。私は、それが欲しい…。代わりに貴方の知りたいことをなんでもひとつ、教えて差し上げます」 「…俺と取引を?」  メイドはニコリと笑って「だって、情報は時に命よりも価値が重い…なんでしょ?」と言った。 「……それでは、私たちはこれにて失礼いたします。何かお話がございましたらナイトベル公爵家のメイド、ソフィまで」  綺麗なお辞儀をして、固まったままの俺に構うことなく二人はここから出て行った。 「俺が知りたいこと…『てんせいしゃ』って…?」  俺は誰もいない部屋で、うわ言のように呟いた。
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