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第3話(2) 怒り狂う公爵家の人々
「そうか、婚約を解消したいと…」
場所は私の自室から変わり、アパートメントにある応接室へと移動していた。
私とお兄様は隣に並んで、赤茶色の革張りのソファに腰を下ろしていた。目の前に腰掛けているのは顔立ちも色合いも私たち兄妹とよく似た、父親であるナイトベル公爵閣下。その隣には公爵夫人であるお母様。優しげな目元をお兄様が、そして口元にある黒子を私が、このそれぞれがお母様から受け継いだ特徴的部分だ。
「…公爵家の人間として、殿下と私の婚姻の意味を分かっているつもりです。どれだけこの国にとって重要であるか、そして利益をもたらすのか…我儘を通そうとしていることは百も承知です。ですが、私は…」
言葉につまり俯くと、お兄様がそっと優しく肩を抱いてくれた。
「旦那様…」
お母様も何かを懇願するようにお父様を見上げる。お父様は難しそうな顔で唸っていた。
「…私は…婚約破棄を、したいです!」
お兄様がそばにいてくれたことで勇気を持てた私は、もう一度お父様に素直な気持ちを告げた。
お父様と目が合う。冷たそうな藍色の瞳の奥底には、温かな愛情を感じる。
「…私もここに来るまでに考えていたんだが…」
「ソフィ、あれを」
「はい。畏まりました、シモン様」
お父様がお話しようとなさったのと同時に、お兄様が私の後ろに控えていたソフィに何かを命じる。ソフィは待っていましたと言わんばかりに、素早く動きお兄様が望んだ何かを、私たちの間にあるテーブルの上へとそっと置いたのだ。
まぁ、あれは…。
お父様とお母様が、テーブルの上を覗き込む。
殿下とリリス嬢の、浮気現場の写真だわ。
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