第21話(3) 茜色の小公爵様

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 だって、あまりにも不幸なんだもん。  奥様の病気をきっかけにこの家族は光を失っていく。ゲーム内で語られた悪役令嬢シャロンの数少ないエピソードの中に奥様の病名が発覚した時にはもう手遅れ状態だったとあったが、今はまだ手遅れじゃない。奥様の病気は、早期治療さえしっかりすればちゃんと治るものだった。  兎に角、私は『前世の記憶』というチート能力を用いて暗躍しまくった。  旦那様が運営する会社の新商品開発に少しだけ携わったり、シモン様に前世の世界にあった政策をこんなものがあったらなぁ、とそれとなく伝えてみたり。私の情報をどう扱うのかはお二人次第だけれど、優秀な父子は見事にこの世界に順応させて実現してみせた。さすがです、のひと言に尽きる。  私の暗躍も甲斐あって、ゲーム内のナイトベル公爵家と随分と雰囲気の違う公爵家になったなぁ、と胸を張っている。  どこか陰気で闇が漂う公爵家だったのに、今では笑い声が絶えず響き光溢れる公爵家だ。ソフィは大満足である。  私はこの世界での今までの人生を簡単に振り返りながらニマニマと口角をあげた。けれどすぐに顔を顰めてしまう。  なぜなら、お嬢様を取り巻く今の状況がゲームと全く違うからである…いや、私もそれを望んでいたことなのだけれど、予想外のことが起こっていることに不安を感じるのだ。  最初の不安はセドリック王子の登場、そして剣技大会の優勝者がエリック様ではなくレオン様だったこと。他にもイーサン王太子の廃嫡、記者Xの出来事など。私の知らないところで何かが動き続けているのだ。  何がお嬢様の脅威になるか…分からない。
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