第3話(2) 怒り狂う公爵家の人々

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「…それには私も強く同意したいところですが、お世継ぎ問題に発展するので難しいでしょうね」  部屋の所々でお父様から漏れ出る魔力がバチバチと爆ぜている。お兄様は笑顔でお父様にお世継ぎ問題を指摘しているけれど…今はそんな場合ではない!  顔を赤く染めて怒り狂う父親の姿を初めて目の当たりにした私は、不敬罪のこともあり動揺から隣でにこやかに笑う兄に助けを求めた。 「お、お兄様! お父様を落ち着かせて!」  いつもの上品な物腰のお父様じゃなくなったわ! だって、一人称が『私』から『俺』に変わっているもの! 「シャロン、これは仕方ないよ。私も今でこそ冷静になってきたけれど、あの瞬間は、確かに、私は殿下に殺意を抱いた。エリックが手を出さなければ、私が動いていたに違いない」 「お兄様まで…!」  お父様やお兄様の反逆罪ともとれる危険思想に、私の脳裏にはソフィが教えてくれた『乙女げーむ』のエンディング内容が過ぎっていた。  お父様の打ち首。お母様とお兄様の国外逃亡。私の幽閉の塔への監禁。ナイトベル家の没落…破滅。 「や、やだ! お父様もお兄様もやめて!」 「…シャロン?」 「これ以上のことを言ったら…我が家が、不幸になっちゃうわ…」  私は最悪の未来を想像してしまい、とても恐ろしくなった。しゃくりあげて泣く私の肩をお兄様が抱きしめる。 「シャロンちゃんの言う通りよ、旦那様。いくら外道とは言え相手は王族。一歩間違えれば、窮地に陥るのはこちらの方だわ」 「……そう、だな。すまない。当主である私が、冷静さを欠くなど言語道断だな」  お母様に諭されて、お父様も落ち着きを取り戻してきたようだ。お兄様も、私を抱きしめながら「ごめんね、シャロン」と呟いていた。 「シャロン、お前の気持ちはよおく分かった。我々ナイトベル公爵家は、建国時より王や国を支えてきた忠臣だと私は自負している。だが、今回のイーサン王太子の行為は我々の忠義を裏切ったと同等の行いである。決して許されない」
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