第21話(4) 酒は飲めども…(以下略

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 風呂を出るとリチャードが待ち構えていた。 「シモン様、ソフィから『シジミのミソシル』の差し入れがありました。二日酔いによく効くそうなので、是非お召し上がり下さい」  ニコッと笑うリチャードは、執務席の椅子を僅かに引いた。私はバスローブを羽織ってその椅子に腰掛ける。リチャードは後ろからタオルで私の濡れた髪の水気を優しく拭き取りはじめた。  目の前にはゆらゆらと揺れる湯気がたちのぼる茶色い液体。『ミソシル』はよく知っている。数年前にソフィが『ミソ』という調味料を作り出してからは、よく我が家の食卓に並ぶようになった。飲むと心がほっとする優しい味に、私だけでなく家族や使用人の皆ミソシルが大好きだ。 「…ああ、落ち着くな…」  温かいミソシルが私の胸奥をじんわりとあたためる。シジミという小さな貝も、食欲のない今ちょうどいい大きさと味だった。 「僕も先程頂きました。『ミソシル』って本当に美味しいですよねぇ。僕は将来、絶対に毎朝ミソシルを作ってくれる女性と結婚しようと思います!」  リチャードの結婚相手の条件が『毎朝ミソシルを作ってくれる』って…それで決めてしまってもいいものなのかな? いや、確かに。そんな毎朝を迎えるなんて、とても幸せなことだろう…。  瞼を閉じて、自分とソフィを登場人物にそんな未来を妄想する。  ———うん? 待って。 「…………リチャード、今なんと?」  私はザワザワと騒ぎ出す胸を抑えて、後ろのリチャードを振り返った。
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