第22話(2) 真犯人

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◆◆◆ 「『話し合いたいから時間が欲しい』って言ってきたくせに、待たせるってどういうこと!?」  私は自分の取り巻きのマシャーク伯爵令嬢から渡された仄かに甘い香りが漂う薄ピンク色の便箋を見下ろして、苛立ちからクシャリとシワを作ってしまうほど強くその手紙を握り締めた。 「『悪役令嬢』のくせに…本当に生意気!」  手紙の送り主…シャロン・ナイトベルを思い浮かべながらチッと舌打ちする。  あの女に会ったら言いたい事が山ほどあるの。これまで奴にやられてきた陰湿な仕打ちの数々…今更謝ってきたところで許すつもりは毛頭ない。頭を下げてきたところに、なじってなじって、なじってやるんだから!! 「…にしても、遅いわね。約束の時間は過ぎているのに」  ああ、もう! 腹の立つ! 「私は『ヒロイン』、リリス・スイートラバーよ? この私をこんなに待たせるなんて、あの女、何様のつもり?」  シャロンが指定してきた時間と場所に遅れずにやって来た私が馬鹿みたいじゃない。  放課後の、それにもう夕陽も沈もうとする時間だから人気(ひとけ)はないし…普段使われない階段の踊り場だから余計に誰も通りかかることもない。 「…あと5分待って、それでも来なければ帰ってやるんだから」  薄暗い校舎とはなんでこうも不気味なんだろう。恐怖感を紛らわすため、大きな独り言が多くなる。  その時、「リリス嬢!」というシャロンの声が聞こえた。声のする方を見ればシャロンが慌てたような顔でこちらへ駆け寄って来ている姿が見えた。 「あんたねぇ! こんなに待たせるなんてっ…」  文句を言ってやろうと大声をあげたところに、私の背中が何かに強く押されたのだ。 「———え?」  何が起こったのか…訳もわからず、理解する前に浮遊感が私の体を包む。  私の体は階段の上から投げだされる状態で落下していく。ひっくり返っていく視界の中でこれだけは理解出来たんだ。  今、誰かに階段から突き落とされた。
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