第4話(1) 陛下の誤算

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第4話(1) 陛下の誤算

 いつものように執務室で書類仕事をしていると、扉の向こうからバタバタと騒がしい足音がして、勢いよく扉が開いた。 「陛下!」 「…何です、あなた。ノックもせずに扉を開いて…無礼ですよ」  私の側に控えていた筆頭執事が、不愉快を露わに扉の前に佇む侍従を叱責した。 「よい。で、なんだ?」  筆頭執事を制し侍従に話の先を促すと、彼はおどおどしながらも、「ナイトベル公爵閣下が取り急ぎ、非公式に陛下にお会いしたいと仰っています…」と、告げてきた。 「…きたか」  来ると思っていた。あの男ならば。ナイトベル公爵の娘の溺愛ぶりは社交界でも有名だからな。  思い出されるのは、昨夜のこと。我が息子イーサンをつれて、未来の臣下であるハリスら三人が私の元へとやって来たのだ。  話を聞き状況は把握している。イーサンが婚約者を蔑ろにし、他の令嬢にうつつを抜かしていたとか。  傍目から見れば非があるのはイーサンの方だから昨日は厳しく叱りつけたが、内心では我が息子ながらもっと上手くやれなかったのかと落胆していた。婚約者に遊び相手との密会を目撃されるとは…不幸とは言え、本当に情けない。  しかし、だ。我々王族はこの国のためにこの血筋を残していかなければならない。王族としての使命でもあるのだ。ナイトベル公爵令嬢…シャロン、と言ったか…あの娘もその事については妃教育を通して学んでいる筈だ。婚姻後にイーサンが側室を迎える可能性も大いにある。  今回のイーサンの火遊びを許そうと言う気概もなく、果たして未来の国母が務まるのか? と、思う。
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