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「今日のところはエリック様をお捜しつつ、騎士学部の構内を少しまわってみましょう。まだ時間に余裕があるとはいえ、午後の授業もございますし」
ソフィの提案に私は頷き、改めて周りを見渡した。この方たちが将来、国や私たち国民を守ってくれる方々なのね。よく見れば、日々鍛錬をなさっているからか生傷だらけね。…本当にすごい。国の未来のため、盾となり矛となる決意をなされた方々に、頭が下がる思いだわ。
……未来の王太子姫で無くなった私に、国のために一体何が出来る事があるのだろう。最近、そんな事をふと考える。きっと、出来る事なんて何もないのだろう…。では、家族の為に何か…と考えても、ナイトベル公爵を継ぐのはお兄様だし、私は最終的には嫁ぎ公爵家からいなくなる身。せいぜい出来る事と言えば、公爵家にとって利益のある政略結婚くらいよね。
私は隣で楽しげに笑うメイドに視線を向けた。『素敵な恋の出会いを』と望む一方で、そんな現実的な事を冷静に考えている自分がいることについて、ソフィに言えないでいる。…なんなのだろう、このもやもやする気持ち。自分でもよく分からない。
「お嬢様? どうなさいました?」
「あっ…ううん、何でもないの」
ぼんやりとソフィを眺めていたからか、ぱちりと彼女と目が合い慌てた。…とりあえず、先の事は誰にも分からないのだから、今はこうしてソフィと楽しいと思える時間が過ごせればそれでいい。
「シャロン嬢!」
自分の中で一旦は納得する答えが見つかり頷いていると、前方から名前を呼ばれたのでそちらに目を向けた。
「まぁ、エリック様」
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