第1話 メイドの告白と教え

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 『乙女げーむ』と言うのは彼女の言う前世の世界では一般的に普及していた『げーむ』という娯楽品のひとつだそうだ。  どんなものなのか簡単に教えて貰うと、『げーむ』は四角い箱に静止ではなく動く絵が投影されていて、絵が動きながら変化していく内容を見て物語が進んでいく様を楽しむものだと言う。  箱のサイズは両手を広げたよりも大きなものから手の中に収まる小さなサイズまでと豊富らしい。厳密には『てれび』や『げーむき』と言って種類は違うらしいのだが良く分からない。  そういった『げーむ』の中でも『乙女げーむ』には小説物語のように『ひろいん』と呼ばれる主人公がおり、その主人公と周りを取り巻く魅力的な男性達を中心にストーリーが進んでいくという。  ロマンス小説のようね、と伝えると、小説とは違い主人公の行動は幾つかの選択肢から選ぶことが出来て、選択肢によって最後に結ばれる男性や、エンディング内容が変わるのだと言う。  …とても面白そうだわ。私もやってみたい。そう思ってそのままメイドに伝えると、「私も前世を思い出した時、三種の神器が恋しくなりました…冷蔵庫があればお嬢様にアイスを作って差し上げられるのに! 洗濯機があれば午前中の洗濯業務で楽できるのに! 何故魔法があるのに科学は無いの!?…と」と、早口に返された。非常に悲しげな表情で。  『三種の神器』って…名前からして大層なものが『にほん』にはあるのか。益々メイドの言う前世の世界に興味が湧き、『にほん』に行ってみたいなぁ。なんて、そんな事を呑気に考えていると、メイドの爆弾発言が耳に飛び込んできた。 「シャロンお嬢様は、『悪役令嬢』なのです」  あ、悪役…? 私が? 「ヒロインであるリリス・スイートラバー様がお嬢様の婚約者であるイーサン王太子と仲を深めていく様に嫉妬しお虐めになり、挙げ句の果て階段から突き落とした所を現行犯として断罪されるのです」 「なんてこと…」 「さらにお嬢様はイーサン王太子の怒りを買い、極刑を言い渡された極悪人でも足を踏み入れる事は滅多にないと言われる幽閉の塔へと捕らえられ、そこで一生涯を終えます。お嬢様を溺愛するナイトベル公爵は怒り、お嬢様を返して欲しいと王族に対し反旗しますが反乱分子として制圧され、爵位返上と公爵様の打ち首。旦那様が残された時間でお兄様であるシモン様と奥様をなんとか国外へと逃しますが、その後は行方知らずでございます…そして、お嬢様は…塔に面会に来ていたリリス様にご家族の顛末を聞かされ絶望し、予定されていた斬首の刑を待たずに果物ナイフで自害するのです…うぅっ」  メイドが涙を流しながら語った内容は、あまりにも酷く、そしてナイトベル家にとって不幸だった。
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