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ガシャンッ
「うわ! 申し訳ありません!」
すると、令嬢たちの近くを通りかかっていた騎士学部の男子生徒が両手一杯に抱えていたいくつもの模擬剣を落としてしまい、驚いた令嬢たちの会話が一旦止まる。
「あ、危ないではないですか!」
目を吊り上げて声を荒げる令嬢の足元で、男子生徒は何度も謝りながら模擬剣を拾っていた。
「あら? この方…」
「もしかして、噂の…」
男子生徒を見下ろしながら、令嬢達が何かに気付いたようだ。すると、段々と令嬢達の視線に軽蔑の色が滲む。
「このようなお方が、この伝統ある王立学園に入れる事が最大の謎ですわね」
「えぇ。さらにご出身と同じく愚鈍で愚図。」
なんて言葉を人に投げかけているのだろう! 私は驚きと怒りで視界が真っ赤になった気がした。
「けれど…その端正なお顔立ちは魅力的ですわ。どうです? 卒業後はうちにいらっしゃらない?」
「まあ、ふふ…物好きですのね!」
「マシャーク伯爵令嬢」
気付けば私は彼女たちの元へ足を進めていた。今度こそピタリと会話を辞めて、彼女たちが私を見る。
「パリストン子爵令嬢、ヤラカイラ子爵令嬢、ご機嫌よう」
にっこりと微笑み挨拶をすれば、警戒しつつもぎこちない笑みを浮かべて挨拶を返す令嬢達。
私がチラリと未だに令嬢達の足元にいる男子生徒に目を向けると、綺麗な金色の瞳と目が合った。頷いてみせれば、男子生徒は慌てた様子で私だけに見えるように頭を下げ、模擬剣を全て拾ってからこの場から去っていった。
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