第6話(2) 綺麗な瞳

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第6話(2) 綺麗な瞳

 少し走ると、すぐに探し人の後ろ姿を見つけた。黒髪に広い背中、背が高いので難なく見つけることが出来たのだ。  声をかけようとして、私は気付いた。彼はしっかりとした足取りで、先程盛大に撒き散らした模擬剣を軽々と抱えている。あの時のように、危なげに荷物を落としてしまうようには見えなかった。もしかして…さっきの彼の行動は、私を助けようとしてくれた…? 「…あの、お待ちください…!」  緊張から思ったより声が小さくなってしまったが、彼はすぐにこちらを振り返る。私の姿を認めて、とても驚いたように目を丸くしていた。  やっぱり、綺麗な瞳…。黄金を溶かして瞳の形に象ったよう。鍛えられた身体に反して、その整った顔立ちにはまだあどけなさが残っている。それがまた、彼を魅力的にみせているのかもしれない。  彼は振り返った姿のまま固まり、私も何と言おうと悩んで、少しの間見つめ合う形となった。 「…先程は、ありがとうございます」 「……………え?」  やっとの思いで口にした感謝の言葉だったが、彼は依然として固まったままで、長い沈黙のち一言を発した。 「あの時、わざと荷物を落として私を助けようとしてくれたのでしょう?」 「……よ、余計なことをしてしまいました」  そう返す彼の言葉に私は確信する。きっと、マシャーク伯爵令嬢たちの会話が彼にも聞こえていたのだろう。
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