第6話(4) 憧れと恋慕

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 彼女の存在は入学当時から知っていた。そりゃあ、噂になるよな。なんて言ったって、未来の王太子姫、つまり国母となるお人なのだから。  それでいて美しい容姿、品のある所作と豊富な知識。常に冷静沈着で、容赦のない人だとも。打ち所のない完璧な令嬢だと、皆が口々に噂していた。  俺は特に興味なかった。あるのは卒業後の未来だけ。この学園で何と言われようと、苦労はあるけれど結局どうでも良かった。  噂にしたって、俺にとっては雲の上の存在すぎて「へー」って感じで、自分に関係ないと思っていた。  そんなある日、騎士学部エリアにいると何かと雑用を押し付けられ迷惑していたから、俺は共同エリアに行ってみた。入学したばかりで環境の変化とか、人付き合いとか…とにかく疲れていたんだ。  少し休みたい気持ちで庭園へ赴き、人目に触れなさそうな影になる場所を探していると、数名の貴族令嬢がこちらにやって来ていた。  人と鉢合わせしたくなくて、俺は咄嗟にすぐ近くにあった東屋の裏へと身を潜めるが、運悪く令嬢たちはこの東屋へやって来た。  はやく何処かに行ってくれないかな…と思いながら令嬢たちを盗み見ると、ひとりの女生徒が目に入った。美しい容姿、品のある所作…未来の王太子姫はあの人だと、すぐに分かった。  なるほど確かに、息を呑むほどの美人。俺には一生、縁のないような…。
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