第6話(4) 憧れと恋慕

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「それにしてもイーサン殿下は、何を考えていらっしゃるのでしょう!」 「あのような私生児をお側に置いて!」 「シャロン様と言う婚約者がおりながら!」  彼女の周りを取り巻く令嬢たちは怒った口調で口々に言った。彼女は曖昧な笑顔を浮かべながらも、「皆さん、心配してくれて有難う。でも、これは殿下と私の問題ですので…私も殿下と過ごす時間を今以上に増やしていけたらと思っておりますの」と言った。  その場はそのひと言で収まり、彼女を残して他の令嬢はこの場を後にする。  王太子が他の令嬢にうつつ抜かしているって話、本当だったんだ。なんて事をぼんやりと考えながら、もうこの東屋の裏で寝てしまおうかと思い始めた頃、彼女のメイドがやって来た。 「ソフィ! 遠くなかった?」  この時、彼女の事を盗み見ていなかったけれど、同一人物なのかと思うほど、聞こえてきた声の明るさが違ったので驚いた。 「お嬢様のためならば、どこまでも参りますよ!」 「ふふ。ソフィ、ありがとう!」  寝ようとしていたのについ気になって、もう一度盗み見る。彼女はメイドから一冊の本を受け取っていた。そして、メイドと顔を見合わせて笑う。さっきの、令嬢たちに向けたような綺麗な笑顔ではなく、心底嬉しそうに口を開けて笑う大輪の花が咲いたような笑顔。 「……可愛いな」  気付いたらボソリと呟いていたみたいで、俺はしまったと慌てて口を手で塞いだが、幸い目の前の二人には聞こえていなかったみたいだ。  彼女の素顔はこっちなんだ。そう思うと、彼女に対しての印象が俺の中でどんどん変わっていった。
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