第6話(4) 憧れと恋慕

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 その日から、俺の頭の中には彼女が住みついた。日に日に存在が大きくなっていく彼女が俺を離してはくれない。  つらい、苦しいよ。  こちらを振り返ってはくれないくせに、彼女は俺だけを深く深く虜にするんだ。  彼女に対しての王太子の冷たさに、何度も悔しい思いをした。 『愛がないのなら、俺に譲ってくれよ』  想いすら寄せてはいけない人に、何度も夢を見た。 『一度でいいから、その瞳に俺を映してくれ』  俺の中で偶像を超えていく彼女に、何度も…。 『憧れだけで済ませておけよ』  ……はい、エリック先輩。分かっています。ちゃんと分かっていますから。  頭の中に住みつく彼女が問いかけてくる。 『本当に、わかってる?』  俺の確かな恋慕を見透かすその星空の瞳がおそろしいよ。  なぜ俺は、平民なんだろう…。
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