第7話(1) 気になる存在

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第7話(1) 気になる存在

 謹慎中だったイーサン殿下が、処罰を解かれ晴れて学園に戻ってくるらしい。まだ周りの生徒が知らない事柄なのに、なぜ私が知っているのかと言うと、朝一枚の手紙が届いたからだ。  自室で中身を読んだ後に上質だと一目にわかる封筒の裏を見る。『イーサン・デイル・サンロード』。長年の多くはなかった文通で見慣れた筆跡で書かれていた。 「お嬢様、手紙には何と…?」  心配している様子のソフィが尋ねてきた。今は支度準備をしているから、ソフィは私の髪を綺麗に梳かしてくれている最中だ。鏡越しにソフィと目が合った。私は小さく息を吐いて、手に持つ手紙を無造作に鏡台の机の上へと放った。 「しっかりと謝罪したいから、私に会いたいそうよ」 「…そんな、自分勝手な…」 「ええ、本当に」  けれど、王太子が望んでいると言うならば、赴かないわけにはいかないのだろう。早くも憂鬱な気持ちになりながらも、ふと頭を過ぎるひとりの殿方。  レオン、今日は何をして過ごすのかな…。と、私はハッとして考えを振り払うように頭をプルプルと横に振った。 「わ! お嬢様! じっとしていてください!」  …怒られてしまった。シュンと肩を縮め、ソフィに言われた通りにじっとする。  レオンに拒絶されたあの日から1ヶ月程が経ち、私はソフィとともに何度かエリック様を訪ねていた。するとたまに見かける、ずっと遠くにいるレオンの小さな姿。なんだか気まずくて、私から話しかけることが出来ないし、レオンもレオンで絶対にこちらに近付いて来なかった。  いつの間にか季節は少し進んで、制服は半袖へと衣替えしたというのに、私たちはお互い一度も挨拶すらしていない。
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