第7話(2) 謝罪とは…

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「シャロン」   名を呼ばれたので、目の前の殿下を見つめ返す。蜂蜜のように艶やかな金髪を揺らして、自信に満ち溢れた碧眼。まるで絵本の中から飛び出してきた王子様そのもの。一級品の美貌を誇る殿下は、愛されることを当たり前に享受してきたのだろう、だから相手の気持ちが分からない。いや、知る必要があるとすら思い至っていないように見える。 「この度は、すまなかった」 「………いえ」 「………」 「………えっ?」  暫し私と殿下は見つめ合った。えっと…終わり? 謝罪って、それだけ…!?  言ってはなんだが、あれだけの事をしておいて、いくら王太子であってもたったひと言の謝罪で済ませるなんて。さらに言えば、そちらから謝罪したいと申し出てきたのでしょう! それをこのような心の籠っていない謝罪をひとつ…私の常識からは信じられなかった。 仮にも、今回破談になった私たちの婚約は、王太子と公爵令嬢の婚約なのだ。国の行く末を左右するほどの重要性。それを、不誠実で身勝手に掻き回した殿下は、自身の行いの無責任さと事の重大さを理解しているのだろうか? この人は、謹慎期間、一体何を考えて過ごしていたの? 「い、イーサン殿下…。何か他にもシャロン嬢にお伝えしたいことがありましたよね…?」  目を丸くして殿下を凝視する私を、顔色悪く伺いながらラザーク様が殿下に助け舟を出した。 「? いいや、特にないが?」  なんと! あろうことか殿下はラザーク様の助け舟には乗り込まず、自作の泥舟に乗り込んだようだ! ハリス様もエリック様も、驚きのあまり言葉を失っているようで、「う、いや…」とか「その、だから…」と、うめき声ともとれるようなうわ言を呟いている。 「シャロン、この菓子はなんでも下級貴族令嬢の中で人気の菓子らしくてな。いつも私やシャロンが口にする菓子よりは質感が荒く素朴な味で劣るが、それが逆になんとも新鮮で…私は結構気に入っているんだ」  と、未来の臣下たちの心を察する事もせず要件は済んだとばかりに、明らかにリリス嬢より仕入れた情報を得意気に話す殿下に対し、私はもう何も考えたくなくて「ああ、はい…」と、適当に相槌を打った。  私が、謝罪を受ける側が、海よりも広い心で許せと言うのか。 地獄のようなお茶会は続く…。
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