第7話(3) やらかす王太子

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 思い返すだけでも気分が悪くなる。  なぜ私が『好色女』だと下品な言葉で辱められなければいけないのか。悔しくて、悔しくてたまらなくて、目頭がツンと熱くなる。  じわりと滲む視界を懸命に見開いて、貴族令嬢らしからぬ大股で廊下を進んでいく。…人気がなくて良かった。今いる共同エリアの3階校舎には生徒会室や職員室があるだけで、一般の生徒はあまり立ち寄る事がない階だった。  私は早足で階段を下りようと差し掛かる。俯く視界の中で、ここのところ頭から離れない金眼の人が階段下に立っている事に気がつき私は大層驚いた。  …こんな顔、見られたくない。  私は顔を逸らし、早足で階段を駆け降りていく。  レオンも私に気付き一瞬足を止めたが、気まずそうな様子を醸し出しながらもゆっくりと階段を上ってきていた。  なぜこのような場面でレオンと会ってしまうのだろう…! 格好の悪いところを、何故か彼には見せたくない。いつも完璧な姿を見て欲しい。せっかくソフィが可愛く髪を結ってくれたのに。私がこんな顔をしていたら、台無しね…。  私はレオンと目も合わせずに隣をすれ違う。けれど、内心ではレオンばかりを意識し過ぎて、足元が疎かになり段を踏み外してしまった。 「きゃっ!?」  ずれ落ちる視界と少しの浮遊感の後、私は何故か階段を転げ落ちずに済んでいた。レオンの制服から剥き出す筋肉質な腕が私の腰にしっかりと回されていて、私の身体を軽々と片腕で抱き上げていたのだ。放心状態で顔を上げれば、とても驚いて大きく見開かれた金眼と視線がぶつかる。 「れ、レオン…」 「あ、の…つい、反射的に…。なぜ、泣いて、いるのですか?」
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